Kitap · こころ
Sayfa 107 / 185
Yazar: 夏目漱石
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私は奥さんの態度をどっちかに片付けてもらいたかったのです。頭の働きからいえば、それが明らかな矛盾に違いなかったのです。しかし叔父に
欺かれた記憶のまだ新しい私は、もう一歩踏み込んだ疑いを挟まずにはいられませんでした。私は奥さんのこの態度のどっちかが本当で、どっち
かが偽りだろうと推定しました。そうして判断に迷いました。ただ判断に迷うばかりでなく、何でそんな妙な事をするかその意味が私には呑み込
めなかったのです。理由を考え出そうとしても、考え出せない私は、罪を女という一字に塗り付けて我慢した事もありました。必竟女だからああ
なのだ、女というものはどうせ愚なものだ。私の考えは行き詰まればいつでもここへ落ちて来ました。
それほど女を見縊っていた私が、またどうしてもお嬢さんを見縊る事ができなかったのです。私の理屈はその人の前に全く用を為さないほど動き
ませんでした。私はその人に対して、ほとんど信仰に近い愛をもっていたのです。私が宗教だけに用いるこの言葉を、若い女に応用するのを見て
、あなたは変に思うかも知れませんが、私は今でも固く信じているのです。本当の愛は宗教心とそう違ったものでないという事を固く信じている
のです。私はお嬢さんの顔を見るたびに、自分が美しくなるような心持がしました。お嬢さんの事を考えると、気高い気分がすぐ自分に乗り移っ
て来るように思いました。もし愛という不可思議なものに両端があって、その高い端には神聖な感じが働いて、低い端には性欲が動いているとす
れば、私の愛はたしかにその高い極点を捕まえたものです。私はもとより人間として肉を離れる事のできない身体でした。けれどもお嬢さんを見
る私の眼や、お嬢さんを考える私の心は、全く肉の臭いを帯びていませんでした。
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