Книга · こころ
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Автор: 夏目漱石
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父は傍のものを辛くするほどの苦痛をどこにも感じていなかった。その点になると看病はむしろ楽であった。要心のために、誰か一人ぐらいずつ
代る代る起きてはいたが、あとのものは相当の時間に各自の寝床へ引き取って差支えなかった。何かの拍子で眠れなかった時、病人の唸るような
声を微かに聞いたと思い誤った私は、一遍半夜に床を抜け出して、念のため父の枕元まで行ってみた事があった。その夜は母が起きている番に当
っていた。しかしその母は父の横に肱を曲げて枕としたなり寝入っていた。父も深い眠りの裏にそっと置かれた人のように静かにしていた。私は
忍び足でまた自分の寝床へ帰った。
私は兄といっしょの蚊帳の中に寝た。妹の夫だけは、客扱いを受けているせいか、独り離れた座敷に入って休んだ。
「関さんも気の毒だね。ああ幾日も引っ張られて帰れなくっちゃあ」
関というのはその人の苗字であった。
「しかしそんな忙しい身体でもないんだから、ああして泊っていてくれるんでしょう。関さんよりも兄さんの方が困るでしょう、こう長くなっち
ゃ」
「困っても仕方がない。外の事と違うからな」
兄と床を並べて寝る私は、こんな寝物語をした。兄の頭にも私の胸にも、父はどうせ助からないという考えがあった。どうせ助からないものなら
ばという考えもあった。我々は子として親の死ぬのを待っているようなものであった。しかし子としての我々はそれを言葉の上に表わすのを憚か
った。そうしてお互いにお互いがどんな事を思っているかをよく理解し合っていた。
「お父さんは、まだ治る気でいるようだな」と兄が私にいった。
実際兄のいう通りに見えるところもないではなかった。近所のものが見舞にくると、父は必ず会うといって承知しなかった。会えばきっと、私の
卒業祝いに呼ぶ事ができなかったのを残念がった。その代り自分の病気が治ったらというような事も時々付け加えた。
「お前の卒業祝いは已めになって結構だ。おれの時には弱ったからね」と兄は私の記憶を突ッついた。私はアルコールに煽られたその時の乱雑な
有様を想い出して苦笑した。飲むものや食うものを強いて廻る父の態度も、にがにがしく私の眼に映った。
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Не начат