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著者: 夏目漱石

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私もあるいはそうかも知れないと思った。しかしそれにしては少し変だとも考えた。とにかく兄や妹の夫まで呼び寄せた私が、父の病気を打遣っ
て、東京へ行く訳には行かなかった。私は母と相談して、行かれないという返電を打つ事にした。できるだけ簡略な言葉で父の病気の危篤に陥り
つつある旨も付け加えたが、それでも気が済まなかったから、委細手紙として、細かい事情をその日のうちに認めて郵便で出した。頼んだ位地の
事とばかり信じ切った母は、「本当に間の悪い時は仕方のないものだね」といって残念そうな顔をした。
私の書いた手紙はかなり長いものであった。母も私も今度こそ先生から何とかいって来るだろうと考えていた。すると手紙を出して二日目にまた
電報が私宛で届いた。それには来ないでもよろしいという文句だけしかなかった。私はそれを母に見せた。
「大方手紙で何とかいってきて下さるつもりだろうよ」
母はどこまでも先生が私のために衣食の口を周旋してくれるものとばかり解釈しているらしかった。私もあるいはそうかとも考えたが、先生の平
生から推してみると、どうも変に思われた。「先生が口を探してくれる」。これはあり得べからざる事のように私には見えた。
「とにかく私の手紙はまだ向うへ着いていないはずだから、この電報はその前に出したものに違いないですね」
私は母に向かってこんな分り切った事をいった。母はまたもっともらしく思案しながら「そうだね」と答えた。私の手紙を読まない前に、先生が
この電報を打ったという事が、先生を解釈する上において、何の役にも立たないのは知れているのに。
その日はちょうど主治医が町から院長を連れて来るはずになっていたので、母と私はそれぎりこの事件について話をする機会がなかった。二人の
医者は立ち合いの上、病人に浣腸などをして帰って行った。

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