Livre · こころ
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Auteur: 夏目漱石
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私はその点についてKに何か考えがあるのかと尋ねました。Kは夜学校の教師でもするつもりだと答えました。その時分は今に比べると、存外世
の中が寛ろいでいましたから、内職の口はあなたが考えるほど払底でもなかったのです。私はKがそれで充分やって行けるだろうと考えました。
しかし私には私の責任があります。Kが養家の希望に背いて、自分の行きたい道を行こうとした時、賛成したものは私です。私はそうかといって
手を拱いでいる訳にゆきません。私はその場で物質的の補助をすぐ申し出しました。するとKは一も二もなくそれを跳ね付けました。彼の性格か
らいって、自活の方が友達の保護の下に立つより遥に快よく思われたのでしょう。彼は大学へはいった以上、自分一人ぐらいどうかできなければ
男でないような事をいいました。私は私の責任を完うするために、Kの感情を傷つけるに忍びませんでした。それで彼の思う通りにさせて、私は
手を引きました。
Kは自分の望むような口をほどなく探し出しました。しかし時間を惜しむ彼にとって、この仕事がどのくらい辛かったかは想像するまでもない事
です。彼は今まで通り勉強の手をちっとも緩めずに、新しい荷を背負って猛進したのです。私は彼の健康を気遣いました。しかし剛気な彼は笑う
だけで、少しも私の注意に取り合いませんでした。
同時に彼と養家との関係は、段々こん絡がって来ました。時間に余裕のなくなった彼は、前のように私と話す機会を奪われたので、私はついにそ
の顛末を詳しく聞かずにしまいましたが、解決のますます困難になってゆく事だけは承知していました。人が仲に入って調停を試みた事も知って
いました。その人は手紙でKに帰国を促したのですが、Kは到底駄目だといって、応じませんでした。この剛情なところが、――Kは学年中で帰
れないのだから仕方がないといいましたけれども、向うから見れば剛情でしょう。そこが事態をますます険悪にしたようにも見えました。彼は養
家の感情を害すると共に、実家の怒りも買うようになりました。私が心配して双方を融和するために手紙を書いた時は、もう何の効果もありませ
んでした。私の手紙は一言の返事さえ受けずに葬られてしまったのです。私も腹が立ちました。今までも行掛り上、Kに同情していた私は、それ
以後は理否を度外に置いてもKの味方をする気になりました。
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